


銅は長いあいだ、景気が強ければ上がり、景気が鈍れば下がるという単純な見方で語られがちでした。しかし2026年6月末の相場は、もうそれだけでは読みにくい局面です。いま市場が見ているのは需要の総量だけではなく、関税、製錬の立地、そして再生原料をどれだけ確保できるかという点です。米国では政策がCOMEXとLMEの価格差を意識させ、欧州、日本、韓国では製錬品質やリサイクル供給網の重要性が一段と高まっています。
米国側の材料はかなり具体的です。2026年6月1日のホワイトハウスの布告では、アルミ、鉄鋼、銅の関税体制がさらに調整されました。加えて、2025年7月30日の銅に関する布告では、2026年6月30日までに米国内の精錬能力と精製銅市場について更新報告を出し、精製銅への段階的な追加関税が妥当かどうか判断する流れが明示されています。INGも6月中旬時点で、この6月30日の節目が近づくにつれてCOMEXとLMEの価格差が再び広がったと指摘しました。つまり市場は最終決定を待つ前から、米国の銅価格が世界市場より構造的に高くなる可能性を織り込み始めています。
こうなると、相場の主役は鉱山会社だけではありません。製錬、スクラップ処理、再資源化、下流加工まで含めて見ないと全体像を誤ります。欧州で分かりやすいのがAurubisです。同社は6月10日、ハンブルク拠点で銅生産向けとして世界最大級の排気処理システムの拡張段階を稼働させたと発表しました。これは単なる環境対応ではなく、関税で市場が分断される局面でも、安定した非米国の精製銅供給を維持するための設備投資と読むべきでしょう。
日本も同じ方向に動いています。三菱マテリアルは1月13日、米シカゴに新たな資源循環部門を立ち上げ、二次製錬やスクラップ起点の供給網拡大を進めると説明しました。さらに6月3日にはNTTと共同で、使用済みIT機器や通信設備から回収される再生材にトレーサビリティ情報を付けて流通させる新会社NTT Circurustの設立を発表しました。この発表では、日本政府の循環経済アクションプランに触れ、2030年までに国内生産銅の約30%を再生資源由来にする目標も示されています。銅の安定供給が、採掘量だけでなく「回収して、証明して、流す」仕組みの競争になっているわけです。
韓国も英語圏では目立ちにくいものの、流れは同じです。LS MnMは再生原料の使用比率を高め、銅スクラップ処理設備を増やし、基板スクラップの追加処理能力を確保していると説明しています。もし米国市場のプレミアムが続き、世界の精製銅の余裕が細れば、こうした韓国勢の柔軟な原料調達力は想像以上に効いてきます。分断された銅市場では、鉱山権益だけでなく、どんな原料をどこから回せるかが収益力を左右します。
私の見方は慎重ながら明確です。銅は、再び単純な需要拡大相場に戻る前に、すでに「関税とリサイクルの相場」へ移っています。強気材料は、米国プレミアムの持続と、優位な製錬・再資源化企業の戦略価値上昇です。一方で、ワシントンが精製銅への強い追加措置を見送ったり、世界の製造業指標が鈍化したりすれば、この物語は想像以上に速くしぼみます。今の銅相場は一つの価格ではなく、地域ごとに勝ち筋が分かれる分裂市場として見るべきでしょう。
Sources
ホワイトハウス: アルミ・鉄鋼・銅の輸入関税体制の追加調整
ホワイトハウス: 米国への銅輸入調整
ING Think: 米国の銅輸入関税は次にどうなるか
Aurubis: ハンブルクで銅生産向け大型排気システムを稼働
三菱マテリアル: 米国で資源循環部門を新設
三菱マテリアルとNTT: NTT Circurust設立
LS MnM: 循環経済と再生原料の取り組み
リスク注意: この記事は市場解説であり、個別の投資助言ではありません。銅、鉱山株、製錬株、リサイクル関連株、工業株、先物や関連デリバティブは、関税判断、在庫の偏り、製造業指標、スクラップ調達、流動性の変化で大きく変動する可能性があります。
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